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父はいままで約束をやぶったことはなく、後で遊ぶと行ってくれたなら、絶対遊んでくれる、とマヒワは信じている。
マヒワは少し不満げな顔を見せたが、父を困らせるのもいけないと思い、素直に肯いて母のもとに駆けていった。
マヒワと入れ違いに、中年の男が小道を歩いてきた。
背丈はイカルの胸ほどまでの高さしかないが、大きく張った頬骨に、きつく結ばれた口元と太い眉毛が、彼の意志の強さを示していた。
イカルにとって、マガンは剣術の師だった。
イカルはマガンにお辞儀をすると、あずまやに誘った。
マガンが軽く頷く。
イカルが軽やかに歩くのに対して、マガンは大地を踏みしめるように歩む。
「――老師、ご無沙汰しております」
「親子水入らずのところをじゃましてすまんな。近くを通ったので、ちょっと顔を見たくなってな」
「いえ、お気遣いなく。うれしゅうございます。こちらこそ、長い間、修練場のほうにも行けませんで、申し訳ございません」
「かまわん、かまわん。こちらこそ、気遣いは無用。王都守護庁の長官ともなれば、もはや私の時間などないわ」
あずまやに着くと、イカルがマガンに席を奨め、自分も向かい側に座った。
「マヒワちゃんは、礼儀正しく、よい子に育っている。すれ違うとき、儂にもきちんとあいさつしてくれたよ」
「娘のそばにもっといてやらなくては、と思いながら、なかなか叶えられず、父親として失格です。それなのに、立派に育ってくれていると思います。多少、親ばかなのかもしれませんが……」
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