3/14
前へ
/220ページ
次へ
 父はいままで約束をやぶったことはなく、後で遊ぶと行ってくれたなら、絶対遊んでくれる、とマヒワは信じている。  マヒワは少し不満げな顔を見せたが、父を困らせるのもいけないと思い、素直に肯いて母のもとに駆けていった。  マヒワと入れ違いに、中年の男が小道を歩いてきた。  背丈はイカルの胸ほどまでの高さしかないが、大きく張った頬骨に、きつく結ばれた口元と太い眉毛が、彼の意志の強さを示していた。  イカルにとって、マガンは剣術の師だった。  イカルはマガンにお辞儀をすると、あずまやに誘った。  マガンが軽く頷く。  イカルが軽やかに歩くのに対して、マガンは大地を踏みしめるように歩む。 「――老師、ご無沙汰しております」 「親子水入らずのところをじゃましてすまんな。近くを通ったので、ちょっと顔を見たくなってな」 「いえ、お気遣いなく。うれしゅうございます。こちらこそ、長い間、修練場のほうにも行けませんで、申し訳ございません」 「かまわん、かまわん。こちらこそ、気遣いは無用。王都守護庁の長官ともなれば、もはや私の時間などないわ」  あずまやに着くと、イカルがマガンに席を奨め、自分も向かい側に座った。 「マヒワちゃんは、礼儀正しく、よい子に育っている。すれ違うとき、(わし)にもきちんとあいさつしてくれたよ」 「娘のそばにもっといてやらなくては、と思いながら、なかなか叶えられず、父親として失格です。それなのに、立派に育ってくれていると思います。多少、親ばかなのかもしれませんが……」
/220ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加