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 早めに夕食を摂ろうとする人々で混雑している通りを抜けて、マヒワは宿屋に戻った。  二階にある自分の部屋には入るとすぐに棒術家との稽古でかいた汗を拭いた。  服も稽古着から普段着に着替えて、ひと心地がつくと、窓辺でお茶を飲みながら、通りを行き交う人々を眺めた。  治安がよいこともあって、もう日暮れだというのに、眼下の通りの混雑ぶりは日中とさほど変わらない。  ここロウライは、東西南北の交易路が交わる国内唯一の都市だけに、一日を通して行き交う物や人が多い。  大量の物資を陸路で運ぶため、馬だけでなく、牛や駱駝に引かせる荷車の姿が多いのも特徴だ。  馬に引かせる荷車のほうが速度が速いので一般的だが、ここの特産品である紙の束や織物など、重量があって嵩張る交易品は牛や駱駝に荷車を引かせる。 しかも、移動が長距離になるため、隊商の規模が大きい。  国内外に名の通った貿易商のすべてが、この街に支店をおいている。  王都が政治の中心ならば、ロウライは経済の中心だ。  マヒワのような武術家が日銭を稼ぐための一番手軽な方法は、そうした支店で募集している隊商の護衛役に就くことだ。  交易先が遠方になると、一回あたりに捌く荷の種類や量が大きいので、荷車の数も多くなる。  必然的に募集される護衛役の人数も多い。  護衛役を客にして隊商の後をついていく個人経営の商売人も数えると、総勢で千人を超える隊商もこの街では珍しくなかった。  貿易商に雇われた、統率のとれた護衛役が街中に溢れていることも、この土地の治安を高めている要因のひとつだろう。
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