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 一向にバンの現れる気配のないのが不安になってきたことに加え、手早く出てきそうな料理にしたのに、かなり時間がかかっていることも気になりだした。  落ち着かない気持ちを紛らわそうとして、視線を彷徨わせていると、向かいの店の軒下に一人の女の子が立っていることに気づいた。  自分と同じように、あちらこちらに視線を向けている。  誰かを探しているようだ。  夕暮れ時にまだ幼い女の子がひとりというのは、治安の良いこの街であっても、さすがにあぶない。  女の子は、通りを歩いている人に声を掛けようとしている様子だが、呼びかけようとしては、ためらうことを繰り返している。  ――どうしたんだろう? 大丈夫かな?  女の子の挙動はあやしいし、やはりひとりは危ないだろうと思って、マヒワが声を掛けようと腰を上げたとき、後ろから声を掛けられた。 「ねぇちゃん、ひとりなら、こっちに来ない?」 「ひとりじゃ、さびしいでしょ?」 「みんなで食べたら、楽しいよ~」 「同じ剣術家同士、話が弾むこと、間違いなし! ってか、へっへっへ」  振り返らなくても、店に入ったときに目のあった連中だと判る。  そいつらに声を掛けられたことにイラついたが、背後に近づいてきたことに気づかなかった自分にもっと腹が立った。  バンの帰りの遅いことや表通りの女の子のことに気をとられていたとはいえ、剣術家としてあるまじき失態だ。  マヒワは腰を上げた動作から後ろを振り返り、声を掛けてきた男たちを睨みつけた。  だらしない酔っ払いの(つら)が四つならんでいた。 「うおっ! 怖い顔!」 「俺たちにちょっかいだされて、びびったのかな?」
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