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「大丈夫。お嬢さんと一緒においちぃお食事をするだけ、ってね」  といって客たち四人は、マヒワが逃げられないように取り囲んだ。  ――あー、酒くさっ!  マヒワはただよってくる酒臭いおっさんたちの吐息に顔をしかめた。 「ほら、こっちにおいで」  といって伸ばしてきた手を、はたき落とした。 「いてえッ! 何しやがる!」 「同じ剣術遣いだから、仲間よくしましょ、っていうだけなのに、なんでぇ!」 「お高くとまった態度が、全く気にいらねぇな!」 「このお嬢さんには、目上の者に対する躾が必要なんじゃねぇか」 「剣術の世界じゃ、礼儀が大切だからな。ひとつ我々が教えて差し上げようじゃねぇか」 「さぁ、さぁ、お嬢さん、表に出ましょうか」  突然始まった騒動に、店内は静まりかえった。  絡んでいる四人とマヒワから少しでも離れようと、席を立って、戸口や壁際の方に移動する者もいる。  マヒワの料理を運ぼうとしていたと思われる店員が、こちらに来る途中で硬直していた。  絡んできた酔っ払いたちも、このような雰囲気になってしまった以上、収まりがつくまい。 「――恥ずかしい」  という言葉が、マヒワの口から漏れる。 「ほっ、いまなんと?」 「お嬢さまは、恥ずかしいんだと!」 「いや、若いからね。わかる、わかる。大丈夫、恥ずかしがらなくても、だいじょうぶ」 「ささ、こっちにきて、一緒に食事しましょう」  といって、酔っぱらいたちはマヒワを店の奥に引っ張っていこうとする。 「――同じ剣術家として、恥ずかしい」  押し殺したマヒワの声音に、酔っぱらいたちの動きが止まる。
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