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 マヒワは動きを止めずに、鞘ごと剣を抜いて、左側に立っていた酔っ払いの顎先を横なぎに打った。  相手は、頭を震わせ、白目を剥いて、膝から崩れ落ちた。  マヒワの剣が勢いをそのままに、真後ろへ流れていく。  その流れの先にいた酔っ払いは、股間を押さえて口から泡を吹いた。  ひとり残った酔っ払いは、瞬く間に三人の仲間が倒された光景に、唖然として立ち尽くしている。  キラリと一閃。  眼球の先に、マヒワの剣があった。 「まだ恥を重ねるおつもり?」  酔っ払いは顔を動かすこともできず、魚の胸びれのように手のひらをひらひらさせた。 「す、すすす、す、すいませんでした」 「なら、仲間を連れて、さっさと失せなさい」 「は、はは、はい。そ、そ、そうさせていただきます」 「あと、この店は出入り禁止。――わかってるよね」 「も、もちろんでございます」 「あと……」 「はいーっ!」 「あたしへのおごりと、お店への迷惑料――文句ある?」  といって、マヒワは手のひらを指し出した。 「い、いえ。ございませんッ!」  マヒワが、酔っ払いどもを追い払って、受け取ったお金を店に全額渡し、席に着いたころには、表通りの人通りはもう元に戻っていた。  料理を前にすると、とてもお腹が空いていることに気づいた。  もはや、ひとの目なんて気にしている場合ではない。  一気に料理を掻き込んだ。  最後に大振りな椀を仰ぐように掲げて、残った麺の汁を最後の一滴まで飲み干し、「ぷはーっ」と椀を置いたとき、机の向かい側に、女の子がいた。 「――うおぅ!」  少なからず驚いてしまい、われながらおかしな声を上げる。
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