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 しばらく見つめ合うふたり……。  マヒワは、目の前の女の子をどこかで見たような気がして、記憶を遡った。 「あーっ、通りの向かい側にいたー! そうでしょ?」  通りの向かい側にいて、通り過ぎる誰かに声を掛けようとしては、ためらうことを繰り返していた、あの女の子だった。 「ししょー! わたしを弟子にしてください!」  女の子はいきなりそう言って、腰から直角にお辞儀した。  お約束どおり、勢いよく卓上(テーブル)におでこをぶつけて、はでな音をたてた。  マヒワは再び客たちの注目を集めることとなった。  今度は何ですか――、という店員の目線が痛い。 「で、弟子って……。なに、それ?」  弟子になれるかどうかも決まってないのに、「師匠」って呼ぶか、とも思ったが、おでこを赤く腫らした女の子の必死な姿を見ると、言葉にできなかった。 「……ま、まぁ、そこに座ろうか。みんな見てるし」  女の子は、今度はおでこをぶつけないように一礼すると、マヒワの向かい側に座った。  ――実に礼儀正しい。さっきのアホどもに見せてやりたい。 「まずは、お茶でも飲んで、落ち着こうか。――店員さーん!」  おそるおそる近づいてきた店員にお茶をもう一つ持ってきてもらうように頼むと、改めて女の子を見てみる。  歳はマヒワよりはるかに年下で、十歳くらいか。  瞳がきれいで、意志が強そうだが、体格のほうは、ほっそりというより痩せすぎで、体力はなさそうだ。  髪は肩の辺りで切りそろえているが、長く洗っていないようで、絡み合っている。  全体として、生活に苦労している雰囲気がにじみ出ている。
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