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「人から親ばかと言われるくらい、娘と会っているときには何でも望みを叶えてやれ。なかなかに会えぬのだから、会っているときくらいは目一杯甘えさせてやるがよい」  マガンの言葉を聞いて、イカルはマヒワの去っていったほうを見ると、はにかんだ。 「ところで、警備の準備は順調かな?」 「まぁ、順調というわけではありませんが、祭祀の日程に間に合う目処はたちました。それにしても、あちらこちらと対応していたら、きりがありません。ようやく、王族の皆さまにも警備方針についてご了承をいただきました」  イカルのこの発言は、一か月後に迫った、歴代の王の御霊に国家安寧を願う『祖宗(そそう)の祭祀』のことであった。  通常、祖宗の祭祀は三年おきに執り行われているが、今回の祭祀は規模が違う。  雪解け水の少ない年には湖の水位が下がり、羅秦国の建国の王の宗廟が湖中から現れる。今回はたまたま、祖宗の祭祀の年と、湖中の宗廟が出現する年とが合わさったのだ。  この瑞気を戴くため、王族全員で祈念する祭祀となった。  何を祈念するのか――?  それは、近年、羅秦国を脅かす近隣諸国の動きにあった。  羅秦(ラシン)国の北西部は、紗陀(シャダ)宗主国を中心とした白沙(ハクサ)通商連合と接している。  羅秦国と白沙通商連合が友好関係にあった時代は、交易路を軸として双方の国内産業が潤っていた。  ところが、技術の進歩で船舶の大型化が可能になり、航海術が進展すると、羅秦国で海洋貿易が盛んになった。  海洋貿易のもたらす利潤は、陸地を行き交う交易路のそれとは比較にならない。
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