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しかし、ライラを前にして彼女の話を聞いていると、自分の暮らしはとても恵まれていると感じずにはいられない。
国民的英雄に育てられるのと一介の剣術家に育てられるのとで、これほどまでの違いがあるものなのか、といまさらながら気づかされた。
おのれの不幸に囚われて、泣いてばかりいた、あの頃の自分が恥ずかしい。
「――ライラちゃんは、いま幸せなの?」
という言葉が、つい、口から出てしまった。
「わたしには、どういうことを幸せというのか、よくわかりません……」
とライラは師匠の問いかけに真摯に応えようとする。
「ただ、寝るときに、みんな笑顔だったら、今日はいい一日だったな、って思います」
といって、ライラはにっこりと笑った。
――!
――こりゃ弟子になるのは、あたしのほうだわ。しょうもない酔っ払いたちを痛めつけて、いい気になって、あたしもアホでした――ああ、恥ずかしい。
……コホン。
とマヒワは軽く咳払いをして、気を取り直すと、ライラに語りかける。
「今日はもう遅いから、詳しい話は、明日にしましょう」
ライラに孤児院の場所を聞くと、ロウライの郊外にあって、ここからかなり遠い。
夜も遅くなったし、馬に乗ったとしても、ライラを送っていくのは危険だ。
仕方がないから、自分の宿に泊まることを薦める。
留守番をしている弟や妹たちを心配したらどうしようと思ったが、ライラが出かけるときに、今日は一日隠れているように言い聞かせているらしい。
誰が来ても、扉を開けることはない、とライラは言いきる。
いまからだと孤児院まで送ることもできないので、ライラの言葉を信じるしかない。
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