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   〇〇〇  規則正しい音は窓から聞こえてくる。  正確にいうと、窓には板戸を閉めているので、板戸を叩いている音になる。  音は小さくて、かなり間を開けて三回ずつ繰り返されていた。  注意しないと気づかないような微かな音だ。  しかも、この部屋は二階。  窓枠の出っ張りはあったが、ひさしのようなものはない。  叩いている誰かは、二階の窓に貼り付いて、規則正しく叩けるだけの身体能力があるということだ。  マヒワは枕元の剣を手に取って、隣に寝ているライラを起こさないよう、寝台をそろりと降りると、足を忍ばせて窓際に身を寄せた。  マヒワが近づいたのを感じ取ったのか、板戸を叩く音が止んだ。  マヒワが窓に耳を近づけると、 「……お嬢様、バンの遣いの者です。……裏庭へお越しください」  それだけを言い残し、気配が消えた。  板戸のため外は見えなかったが、女性の声のようだった。  マヒワは剣士の服に着替えると、物音をたてないように移動し、宿屋の裏口から庭に出た。  馬小屋とは反対側に、幹回りが二抱えほどもある見事な枝振りの樹があった。  この樹に登れば、建屋の二階に移ることもできそうだ。 「こちらでございます」  案の定、声はその樹の方からした。  今宵の月は薄雲に隠れており、ほとんど相手の容姿を確認できないくらい暗かったが、ためらわずマヒワは歩み寄る。 「お休みのところ、お出まし頂き、恐れ入ります」  そういって、マヒワの前に片膝をついて頭を下げた影があった。  二人の間には、剣の届かない間合いが空いていた。 「バンの遣いの者と聞きましたが……」
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