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 マヒワは、思わず大きい声が出そうになったので、あわてて手で口を覆った。  そのままスイリンを誘って、もっと建屋から離れたところに移動する。  スイリンは、マヒワより頭ひとつ分くらい背が高く、年齢も少し上のようだ。  髪を短くしているのは、変装しやすくするためだろうか。  そのようなスイリンが、いまマヒワの目の前に現れたのは、バンがいなくなったときの手順が、あらかじめ決められていたからだ、という。 「いまも方々に探索の範囲を広めていますが、手がかりらしきものが一つあがりました」 「その手がかかりって?」  どうも、この手の人たちは、話し方がうまいのか、話す内容がそうさせるのか、マヒワは逸る気持ちを抑えきれない。 「はい。――薬包紙でございます」 「やくほうし?」  と甲高い声で聴き返した。マヒワは、我ながら間抜けな声音だと思った。 「くすりを一服ごとにつつむ専用の紙でございます。お嬢様は、この街の特産品が紙であることをご存じですか?」  存じている。バンから教わった。しっかり予備知識も教育されていたのか。  マヒワはこくりと頷く。 「紙の種類と交易先や取引量を調べておりましたところ、十年ほど前から薬包紙の取引量が極端に増えていることに気づいたのです」 「それは、薬が作られたり飲まれたりする量も増えたってこと?」 「そこまでは確認できておりませんが、紙の用途から考えると、その可能性は高いといえます」 「それで、おじさんは、その薬包紙を調査していて、行方がわからなくなった、ということですか?」
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