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 しだいに港をもたない白沙通商連合との経済格差が目立ち始めた。  その頃から、白沙通商連合は交易路と貿易港の領有をねらい、あからさまに圧力を掛けてくるようになった。  今回は、宗主国自らが中核となって連合国の大軍をもって羅秦国の国境を侵そうとする動きがある、との報が舞い込んできた。  この建国以来最大級の国難に接して、国家安寧を歴代の王に祈念するため、今回の祭祀には王族の全員が列席することになっていた。  その警備担当の総責任者が王都守護庁の長官であるイカルであった。  その後もしばらく、イカルとマガンは祭祀の警備について対話をすすめていた。  もと国家元帥として軍を率いていたマガンの、自らの体験を踏まえた助言は、いまのイカルにとっては何よりも有り難い贈り物であった。  マヒワは、二人があずまやで話し込んでいるのを遠目でみながら、慎重に足を運んでいた。  マヒワの両腕には、母から運ぶように頼まれたお茶を乗せた盆があった。  早く父のところに行きたいという気持ちと、お茶をきちんと運んで父に褒められたいという気持ちのせめぎ合いで、かえってお茶をこぼしそうになっている。  マヒワがようやくあずまやにたどり着いてお茶を差し出したとき、緊張のため、笑顔がこわばっっているのに気づいた。  いますぐにでも逃げだしたいくらい、恥ずかしさがこみ上げてきた。 「マヒワちゃん、長い坂途(さかみち)を運ぶのはたいへんだったでしょう。ありがとう、お茶をいただきます」  マガン老師の優しい言葉を聞いて、マヒワは救われたものの、恥ずかしさは消えない。
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