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 翌朝、といってもまだ夜明け前であったが、ライラも起きて身支度をすると、買っておいた饅頭で食事を済ませた。  宿屋には、昨夜のうちに郊外の孤児院に移ることを告げている。  バンが帰ってくるか、誰か用事があるなら、連絡が付くようになっている。  宿屋の馬小屋に預けておいたテンを連れてきて、ライラに紹介した。  ライラは初めて見る大きな動物に、最初は及び腰だったものの、おそるおそる手を伸ばして匂いを嗅がせたりしているうちに、警戒心はなくなったようだ。  テンも打ち解けた様子で、早く乗れ、という身振りをしてみせる。  ライラには乗馬の技術が全くないので、マヒワが背負うことにする。  マヒワは、ライラを背負うと帯でからだを固定し、テンに乗った。  ライラもテンも疲れるだろうから、普段より多く休憩を入れた。  そのようなこともあって、郊外の孤児院に着いたのは昼前になった。  テンから降りた二人は、手綱を近くにあった柵に繋ぎ、建屋に向かった。  孤児院は、街道から丘陵を一つ越えた牧草地帯の縁にぽつんと一軒だけあった。  建屋は、同じ大きさの長方形の建物がコの字型に並べられた配置になっている。  そこから少し離れて、いまは使われていない馬小屋もあった。  土壁はところどころ剥がれ落ちていたが、必要な補修は自分たちでしているようだ。  それぞれの建物の中央部に木製の扉があり、窓も並んでいたが、いずれも板戸で固く閉ざされていた。  建屋の周囲には、日当たりのよい場所に井戸とかなり広い菜園があった。
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