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ライラの説明によると、孤児院では、読み書き算術のほか、農学のような実学を教えているらしい。
そして、菜園で採れた野菜や漬物を、街で売っては、生活に必要なものに換えているという。
年長の孤児たちは、数年前から薬草の栽培にも取り組み、街の薬店に卸すこともはじめていたそうだ。
薬草の商売が軌道に乗り始めてから、かなり生活が楽になったと、ライラは誇らしげにいった。
「……読み書き算術だけでなく、野菜の栽培や薬草などの知識のすべてを、先生が教えてくれるんです」
孤児を育て、学ばせ、自活のすべを身につけさせる。
――す、すごすぎる。このような剣聖さまこそ、人々に崇められるべきよ。
「これからよ、マヒワ。……いまは学ぶとき」
と、自ら励ます声が口から洩れた。
不思議そうに自分を見つめるライラに気づいた。
「うん。だいじょうぶよ。大丈夫」
ライラは、何が大丈夫なのかわからないまま、マヒワに背を押される。
「さっ、どこから入るの?」
「……こっち」
といって、ライラの向かった先は、予想外の建屋の裏側だった。
菜園に出入りするときには、この勝手口を使っているらしい。
当然ながら勝手口も開かなかったが、ライラがこぶしで扉を叩いて合図をすると、しばらくして閂を外す音がした。
扉が少しだけ開き、内から現れた目玉がひとつ、外の様子をうかがう。
扉の前に立っているライラの姿を認めると、扉が大きく開かれた。
「おねーちゃーん!」
小さな女の子が勢いよく飛び出してきた。
マヒワの膝くらいまでの身長しかない。
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