24/31
前へ
/220ページ
次へ
 ――ここの子どもたちは、本当にえらい。それはさておき、ここの先生は、剣術家でありながら、子どもたちに剣術を教えている様子がないわね。  身体感覚を養うという観点で修行を始めるならば、ライラくらいの年齢が限界だ。  この年齢で鍛錬を始めないと、上手にはなっても、衆に抜きん出ることはないといわれている。  それを知っているならば、この孤児院では教育方針として、剣術を教えないのかも知れなかった。  井戸で水くみをはじめたライラに、マヒワはいちど街に戻ることを告げた。  ライラがとても不安げにしているので、理由を聞いてみると、昨日、師匠を探すため、ライラは歩いて街に出てきたらしい。  子どもの足だから、朝のうちに出発したものの、街に着いたのは夕方近くになったという。  だから、料理屋の前でライラをはじめて見かけたのは、夕暮れ時だったわけだ。 「ししょーも、今晩帰ってこないの?」 「いいえ、テンに乗っていくから、街まではあっという間よ。日が暮れないうちに帰ってくるつもり」  というと、ライラは少し安心したようだった。  それでも、マヒワがテンに乗って孤児院をでるとき、ライラはいつまでも手を振って見送っていた。  ――当然、あの年齢で幼いきょうだいたちをみるのは心細いわよね。そこを何とかしようとするのは、責任感が強いということ。行動力もあるし、とてもいい子だわ。  ――用事をさっさと終わらせて、少しでもはやく帰ってあげよう。  テンは持久力のある馬だが、それでもこの距離の往復はきついはずだ。  バテないように馬脚に緩急をつけながら、テンを駆けさせる。
/220ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加