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「いまもなさってますが、いつも門のところで、この街に出入りする品物とかを改められていますよね」 「はい、品物だけでなく、不審な者や手配中の者なども改めております」 「そういえば、マヒワ様も今朝早く、子どもさんと一緒に街を出られましたが、もう帰ってこられたのですか」  といった早朝の当番に当たっていた門衛は、槍対剣の仕合の時、マヒワに剣を突きつけられた弟子だった。 「すごい! さすがですね、みなさん!」  まだ薄暗いなか馬上にマヒワを見た門衛は、マヒワたちの急いでいる様子を認めると、気を利かせて、城門を少し開けてくれたのだ。  門衛の好意による特別なはからいであったことなど思いもせず、通り過ぎた人間の顔を逐一よく覚えているものだと、ただ純粋に感心したまでだ。 「なら、話が早いです」  というマヒワに、弟子たちの頭の上に疑問符が浮かぶ。 「今朝から、あたしは郊外の孤児院にいます」 「あー、あの先生のところですね、――剣聖の」 「ご存じでしたか」 「そりゃもう、街に無頼漢が現れて、我々の手に負えない時は、いつも手伝って頂いております」 「マヒワ様も同じ剣聖であらせられるので、身を寄せられましたか」  なるほど合点がいきました、と弟子たちは勝手に納得しそうになるので、 「いえ、あたし、そこに剣聖さんがいることなんて、全く知らなかったんです」  とあわてて、マヒワが訂正する。  弟子たちの頭の上に再び浮かぶ疑問符。  マヒワは、薬包紙の取引量のことや、孤児院の出来事を中心に、これまでの経緯を掻い摘まんで報告した。
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