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 娘の機嫌がちょっぴり直ったのを見て、母も一緒に笑顔になる。 「ねぇ――お母さん」 「なあに、マヒワ」 「何かお話ししてよ」 「どんなお話がいい?」 「あの剣のお話がいい。あたし、剣が好き」 「剣と仮面のお話ね。いいわよ」  そういって、母は娘の横に寄り添い直し、胸をとんとんと手のひらでたたきながら、語り始めた。 『紅の剣と黒き仮面』のおとぎ話は、符呪師の姉妹の復讐と慈愛の物語で、ルリのふるさとである騎馬民族の間で語り継がれていた物語だった。  物語が終わる頃になると、マヒワは心地よく眠りに就いていた――。  ――あのとき、お母さんが寝台からいなくなったことに、なんとなく気づいていたんだ。  窓を閉めて、鍵を掛ける音も、灯りが消えたことを、あたしの五感は捉えていた。  隣の部屋で、何かが当たって倒れる音を、夢うつつで聞いていた。  しばらくは、夢と現実の境目が判らないまどろみの中にいたけど、物が焦げる臭いがして、完全に目が覚めた。 「おかあさーん」  目を開けても寝室は暗く、怖くなって、お母さんを呼んだ。  いつもは直ぐに来てくれるお母さんが、なかなか来てくれなかった。  もう一度、「お母さん」と、口を開きかけたとき、隣の部屋の扉が開いた。  寝室にも煙と焦げ臭いにおいが入ってきた。  扉を閉めようと、隣の部屋に行った。  そのとき、よろめきながらお母さんが入ってきた。  炎の明かりで、お母さんが肩から血を流しているのを見た。  お母さんは、あたしに寝室へ戻るよう、叫んだ。  お母さんを突き飛ばして、黒いひとたちが部屋に入ってきた。  あぶない――!
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