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 あの夜の出来事は、『宗廟事変(そうびょうじへん)』として歴史に刻まれた。  両親を失ったのは、つらい想い出であることには変わりはないが、以前のように感情が激しく揺さ振られることはなくなった。  母ルリのことは、形見である帯鉤(バックル)を常に身につけていることで、いつも一緒にいると感じている。  この帯鉤に触れていると、つらいときには癒やしてくれて、迷っているときには導いてくれる。  ――お母さん、あたしのやろうとしていることは、これでいいよね?  突然黙ってしまったマヒワに気づいて、子どもたちは顔を見合わせた。  カチェも心配そうな表情で、マヒワの顔を下から見上げている。 「……ああ、ごめんね。考え事してた。……もう大丈夫だから」  ――そう、先生が帰ってこないのなら、この子たちだけで、お留守番させるのは限界だ。  カチェを膝から降ろし、立ち上がって背伸びをする。 「さあ、みんなで、ご飯の支度をしましょう」  昨日と同じように、賑やかな夕食となった。  子どもたちは、マヒワにすっかりなついている。  ひょっとすると、剣聖先生と過ごしていたときより、のびのびしているかもしれない。  食事が終わると、子どもたちは後片付けをし、マヒワは馬車を曳いていた馬とテンを馬小屋に入れて建物の周辺を見回った。 「さてさて、みんなにお願いがあります」  それぞれの用事が一段落したところで、マヒワが子どもたちに呼びかけた。 「なんですか、ししょー」  ライラを筆頭に、子どもたちがマヒワの元に集まってくる。 「明日からしばらくの間、ロウライの街へお泊まりに出かけましょう」
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