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 あとは、 「どうか、おじさんが、無事でありますように……」  と祈らずにはいられない。  バンは、養父母と同じくらいマヒワにとって身近な存在だ。  両親を失ってから、マヒワは、身近な人から離れてしまうことに酷い不安を覚えるようになっていた。  棒術の弟子たちと親しくするのも、孤児院の子どもたちを放っておけないのも、マヒワにとって身近な人たちになってしまったからなのだ。  活動的なマヒワにとって、ただ待っているのは辛いことだった。  何かほかのことに打ち込んでいないと、バンを探しに行きそうになる自分を抑えきれない。  それだけに、宿の仕事のほうは、すこぶる捗った。  その日も気づいたら、就寝の時間になっていた。  子どもたちは隣の部屋で、すでに寝入っていた。  マヒワは寝台の上に横になっているが、なかなか寝付けない。  ――今日も、連絡なし、か……。  そう思いながら何度か寝返りしているうちに、うとうとしてきた。  ――きた!  前と同じように窓に合図があった。  マヒワは寝台を降りると、窓に近づくことなく、すぐに裏庭に向かった。  スイリンなら気配でわかるはずだ。  この前会った立木の傍で待っていると、スイリンが現れた。  今夜は空気が澄んでいて、月の光でスイリンの姿がよくわかった。  その顔には、疲れが見えた。 「お嬢様、ご連絡が遅れまして申し訳ございません」  スイリンは、片膝をついてマヒワに礼をした。 「わわわっ、そんなに畏まらないでください。ほら、立って、たって」 「恐れ入ります」  とスイリンは素直に立ち上がった。
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