十一

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十一

 スイリンは再び片膝をついて礼をすると、「かしこまりました。お嬢様と行動を共にします」と誓った。  続く打ち合わせで、スイリンの探索機関は諜報力はすこぶる高いものの、今回は、砦に潜入する機会をまだ掴めていないことが判った。  近づくことができないので、砦の図面はあっても、どの部屋で何が行われているのか、内部のことは想像するしかない。  スイリンたちの集めた情報を整理していくと、砦で『魔香(まこう)』という睡眠誘導と中毒性の高い薬を製造していることが判ってきた。  ということは、マヒワの推理どおり、孤児院から連れ去られた二人も、この砦にいる可能性が高い。 「――スイリンさんは、おじさんが砦にいると思いますか?」 「街や周辺地域の捜索では見つからないので、砦にいる可能性が極めて高いといえましょう」 「じゃあ、おじさんはどうやって砦に入ったんでしょうね。近づくことも難しいんでしょう?」 「砦には見張り台があって、交代するときにも隙がありません。周りから近づくことはまず無理です」  砦は北方諸国からの侵入を監視するために設けれられただけあって、見晴らしのよい丘の上に作られていた。  砦の周辺の木々は伐採されていて、視界を遮るものは何もない、とスイリンは説明した。 「――お水とかどうしているんでしょうね?」 「籠城を想定した、かなり大きい水槽が敷地内のあちこちにあります」 「外から汲んできてるのかな……」  と水槽の配置を想像しながら、マヒワが独り言のようにいう。 「隣国のタカワンにいた隊商から数台の荷車が分かれて、くだんの薬包紙や食料などの物資と一緒に水も運び込んでいるのを見ました」
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