十一

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 風は牧草地の方から雑木林を抜けて丘の上の方へ吹いているので、マヒワはできるだけ足音を忍ばせて、砦の方向に進んでいった。  やがて木陰から丘の上の砦が見え隠れするようになると、腰をかがめて慎重に進み、最後は腹ばいになって、砦の様子をうかがった。  マヒワは小さいときから牧草地で母と一緒に馬に乗ったり弓矢の稽古をしたりしていたので、とても遠目が効く。  スイリンの報告通り、砦の周囲は雑木林が伐採されて、はげ山になっていた。  はげ山といっても、地面がむき出しになっているのではなく、草地が広がっているのだ。  おそらく、木が伐られたことで、陽の光を直接浴びるようになって、一斉に芽吹いたのだろう。  砦に近いところから木が伐られているのは、砦での生活や薬の製造に使ったためだろうか。  見張り台は、砦の四隅に一棟ずつあって、それぞれに見張り役が二人いた。  それぞれの方面には、二人の監視が付いていることになる。  ――ほかにひとはいないかな?  マヒワが目を凝らして砦の人の動きを探っていると、同じく腹ばいでスイリンがやって来た。 「遅くなりまして申し訳ございません、お嬢様」 「雑木林のなかなのに、よくこの場所がわかりましたね。さすがです」  と本気で感心するマヒワ。 「恐れ入ります」  と淡々と応じるスイリン。  二人は、その後無言のまま同じように腹ばいになって、砦の様子を窺った。  風が梢を揺らす音と鳥のさえずる音以外、静かなものだった。  砦からの音も聞こえない。  丘の斜面を吹き上る風のために、こちらのほうには砦の音が届いてこないのだろう。
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