十一

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 マヒワは射程距離の長い弓であれば見張り台に届くものと思っていたが、この追い風があってもこの雑木林から射ることは難しい。  近づいて射程距離から狙おうとしても、身を隠す場所がない。  ――やっぱり、物資や水などの搬入作業に紛れ込むしかないのかな?  ――でも、搬入がいつになるかわからないし。  ――仮に砦に入ることができたとして、おじさんを救出し、砦から脱出できる?  ――逆にこっちが弓矢で射られてしまう。  ――軍や治安部隊に踏み込んでもらおうか?  ――踏み込めるだけの確かな証拠がないのよね。 「うーん」  どうもよい方法が思い浮かばないので、マヒワは唸るしかない。  マヒワがスイリンのほうを見ると、こちらをじっと見つめているので、恥ずかしくなった。 「……だめぇ」 「お嬢様、諦めるのがはやすぎです」  スイリンは、マヒワの「だめ」を、砦に侵入するのは無理だ、と言っているものと解釈したらしい。 「いえ、諦めてなんかいませんよ。スイリンさんと目が合ったから、その……、恥ずかしくて、だめ、と……」  といったものだから、今度はスイリンの頬があかく染まった。 「……でも、これだけ遮るものが何もなければ、やはり近づくのは無理ですね……」  スイリンは、恥ずかしさを誤魔化すためか、ごく当たり前のことを口にしたが、 「お嬢様――わたくしは、やはりお嬢様にご無理をして頂きたくはありません」  と、言葉が止まらない。 「バンの、父のことを大切に思ってくださるおこころ、大変うれしく思いますが、お嬢様を危険にさらすわけにはまいりません」  声を潜めてはいるが、力が籠もっている。
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