十一

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「お嬢様を危険にさらしたことがわかれば、父もうれしく思いま――」  なおも言葉を続けようとするスイリンの唇に、マヒワは人差し指を当てた。 「スイリンさん、聞いて。あたしは、いま、おじさんを助けなければ、一生、後悔する」  しばらく二人は見つめ合った。  スイリンの瞳が潤んでいるのがわかる。 「でも、父が必ずこの砦の中にいるという確証はありません……」  スイリンの声は震えていた。 「そうですね。それを確かめるためにも、あたしが砦に入ります」  とマヒワがいった。  スイリンの口が再び開こうとするのを、また指でちょんと止めた。 「それで、砦に入るときと出るときに、スイリンさんたちの助けが必要なんですけれど、――お願いできます?」 「もちろんでございます――あッ!」  と返事をしてからスイリンは、もはやマヒワの行動を止めることができなくなったことに気づいた。  スイリンの目の前には、いたずらを成功させたときのマヒワがいた。  スイリンと雑木林で別れてから、マヒワは孤児院に寄った。  建屋のなかの様子をみたが、何も変わったところがないのを確かめた。  周辺を確認するのに思ったより時間がかかって、マヒワは昼前になってようやく西門に着いた。  マヒワが約束どおり門衛の詰め所に顔を出すと、詰め所の丸椅子に腰掛けている老人がいた。 「あっ、ガラム師範! こんにちは」  未明に対応してくれた門衛が棒術のガラム師範に連絡したようだった。 「過日は大変お世話になり、ありがとうございました。それに、お弟子さんたちにも何かとご協力を頂いて、何とお礼申し上げてよいか……」
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