十一

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「まこう、とおっしゃるか。何やら、穏やかでないの」  師範だけでなく、詰め所にいた弟子たち全員が『魔香』という言葉に反応を示した。 「その魔香が、あの砦で作られているようなのです」  というマヒワの話に、ガラムは腕を組んで考え込んだ。  眉間にしわを寄せ、目を閉じながら、 「確かに、ひとが時々あの砦に出入りしているというのは聞いたことがある。しかし、あそこはこの街の管轄外だから、そこに行って確かめた者は誰もいない」  と考えをまとめていく。  弟子たちも頷いている。 「マヒワさん、一体その話をどこの誰からお聞きになった?」  うっすらと目を開けたガラムは武人の顔になっていた。  もはや、「あたしの推理です」程度の誤魔化しはできない雰囲気なので、マヒワはすべてを語ることにした。 「現在、行方不明になっている供の者は、あたしの実の父、イカルの諜報部隊の(かしら)でした」 「なんと! それじゃ、王都守護庁長官直轄の諜報部隊ということですかい?」 「いまは父マガンに仕えていますから、元帥直轄と言うことにもなります。少々、ややこしいですね……」 「こいつは、また、でかいもんが出てきたねぇ」 「あたしが廻国修行で研鑽しているあいだに、共の者は別行動で情報を集めておりました……」  その後マヒワは、棒術の稽古をつけてもらった日に、バンが帰ってこなかったこと、諜報部隊の者が手分けして探索していること、孤児院での出来事などを語った。 「それで、その諜報部隊の者があの砦で魔香を製造していることを教えてくれたんです」 「まあ、その筋の専門家が探り当てたことだけに、信憑性は高いが――」
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