十一

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「あたしが直接お願いに行く、と言ったんですけれど、それでは将軍が暴走するとかガラム師範が言うし、ほかのお弟子さんたちも必死で止めるし……」 「将軍が暴走ねぇ……」  棒術の仕合のところでの経緯を知らないスイリンには、なぜマヒワのお願いで将軍が暴走するのか理解できなかったが、師範が師範代に話に行くのだから問題ないだろう、と納得した。  やがて二人の話は、門衛の詰め所で打ち合わせた具体的な内容に移っていった。 「――お嬢様、砦の侵入には、わたくしも付いていってはいけませんか?」 「ありがたいのですけれど、あたし一人の方が動きやすいし、スイリンさんたちには確実に退路を確保して頂きたいのです」 「しかし……」 「大丈夫! あたしは、これでも一応剣聖と言われている身なんですから、ちょっとやそっとで負けはしません」 「――わかりました。でも、くれぐれもご無理をなさらず。必ず戻ってきてください」 「はい、約束します!」  マヒワにとって、「約束」という言葉は特別であった。  マヒワが父イカルと最後に交わした言葉が、「帰ったら遊ぼう」という「約束」だった。  結局、マヒワは宗廟事変で父を失ったので、父に「約束」を叶えてもっていない。  だからといって、マヒワは父のことを嘘つきだと思うはずもないが、父との想い出を、こころ穏やかに懐かしむことがいまだにできない。  ――同じ想いを人にさせたくない。  マヒワの「約束」は、「誓い」に等しい。  そして、「約束」という言葉を口にすると、死んだ父のことを必ず思い出す。  このときも、マヒワの目はどこか遠くを見つめていた。
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