十一

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 その視界に入ってきた者がいた。 「あっ、師匠だ!」  ウルマだった。  そういえば、マヒワのことをきちんと「師匠」と呼ぶのはウルマだけかもしれない。  ライラもアッシュも、「ししょー」と語尾を伸ばすし、カチェに至っては、「ちちょー」に近い。 「おっ、ウルマくん。しっかり手伝ってるな。偉いぞっ!」  ウルマは、マヒワに褒められて、はにかんだ。  そして、初めて会うスイリンに、丁寧に頭を下げることも忘れない。  ――本当に偉い! 「何を手伝ってるの?」と聞けば、裏の方で配膳や洗い物、ごみの運び出しなどをしていたらしい。  これから宿屋の方に戻ろうとして、マヒワを見かけたのだ、という。 「ああ、それなら、今日は遅くなると思うので、先に寝ておくよう、みんなに伝えてね」 「わかりました、師匠」 「それとね、あたしが、まんがいち……」  といったところで、スイリンが咳払いして、首を振った。  マヒワは、「もう戻ってこないようだったら」と続けようとしていたのを、スイリンが察したらしい。  ――げっ! 本当にあたしの考えてることが、わかるみたい。 「……ううん、何でもない。今日はお疲れさま」  ウルマは、再び頭を下げると、宿屋の方に帰って行った。  ウルマの姿が宿屋の中に消えるのを見送って、 「お嬢様、約束したじゃありませんか。それとも、もう戻ってこられないような予感でもおありですか?」  といって、スイリンはマヒワの目をのぞき込む。  マヒワはスイリンの厳しい視線にぐっと耐えて、自分の頬を両手で叩くと、「よし!」と気合いを入れた。 「やるぞ!」
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