十二

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 スイリンのような諜報活動をする者は、風向きを観察する習慣がある。  たとえば、無防備に風上に立つと、自分のにおいや音を相手に拾われてしまって、たちまち身の危険につながったりするからだ。  今回の作戦でも、風向きが非常に重要なのは言うまでもない。 「どこのあたりまで、燃えやすくなっているのですか?」 「砦方面の草原に近いほうから奥へ三本目の立木までのところです。近ければ、砦から矢を放っているとこを見られる可能性が高まりますし、逆に奥に深ければ矢が通りません。それにしても、油の袋は羊の胃袋を五袋ほど束ねたものですから、見た目はかなり小さいですよ。本当に矢が(あた)中りますかね」 「ええ、あそこの幹の中間ほどにある、実のようなもの。あれですよね?」  といってマヒワは、人差し指を樹木の一角に向ける。  木々の枝の重なる先に、薄茶色の実がなっているように見えるところがあった。  もっと色が白ければ、どこかニンニクに似ている。 「お嬢様には、あれが見えるのですか?」 「遠目が効きますので、爪の先くらいの大きさになっても色や形がわかります。でも、あれは一番端っこだから見えたのかな? ほかのものはここから隠れていて、わかりませんね」 「だいたい等間隔に仕掛けてますので、見つけていただきやすいかと思います」 「いずれにしても、砦に近づく小径(こみち)の反対側から射かけたあと、雑木林の陰を回り込んでるうちに、燃え広がってくれるといいんですけれど……」 「油袋には着火剤を塗ってありますし、燃えやすい地点は八カ所ほどありますので、半分でも射落として頂ければ、煙は間違いなく砦に届きます」
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