十二

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 長弓と、もう一方の矢筒を肩に掛けると、足下の火種を踏み消し、走り出した。  テンを呼ぼうとしたが、砦に指笛の高い音を気づかれるとまずいので、自分の足で駆け抜けた。  ずっと走っているのはさすがに無理なので、何度か歩きながらも雑木林を回り込み、砦に続く小径に出たときには、かなり汗をかいていた。  道ばたの木立の陰に入り、水筒の水で手ぬぐいを濡らすと、汗を拭いた。  水分を補給しながら、砦の方を窺う。  砦は煙で包まれているものの、まだ目立った動きがない。  見張り台も煙の中に消えて、機能を失っているようだ。  雑木林の炎は、草原の方にまで燃え広がっていた。  ただ、煙の高さが足りない。  風にのって砦に届くほど横にたなびいているものの、軍隊のいる下手から視認できるほど煙があがっているようには見えない。  したがって、軍隊がこちらに近づいてくる気配は、いまだにない。  ――お願い! もっと高くあがって、煙さん!  マヒワの願いは届かず、煙は丘の斜面を這うように砦に伸びていく。  雑木林の樹木も本格的に燃えだしたのか、煙の中に火の粉が目立ち始めた。  ――いい具合に燃えてきたのに、惜しいなぁ……。  爆ぜる音も、マヒワのところまで聞こえてくる。  ――ああ、もう! 師範代、早く気づいてよ!  マヒワは、砦を見たり、丘の下手を見たりして、やきもきする。  火の粉が砦に降りかかるようになって、危険と感じたのか、それとも準備が整ったのか、門が開いて、砦から五十人ほどが出てきた。  砦の人びとの服装は、連れてこられたときのままのようで、全く統一感がない。
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