十二

7/18
前へ
/220ページ
次へ
 マヒワは肩で息をしながら、いかにも急いで駆けつけて、息もあがっています、という雰囲気を出した。 「小娘はあっちへいってろ! ここに近づくな!」 「はぁ? おっさんに感謝してもうためにやってんじゃないわよ! 早く火を消さないとだめでしょ!」  大男の顔がみるみるうちにどす黒く染まった。  激怒した大男はマヒワに覆い被さるように両手を広げた。  実力行使で、マヒワを排除するつもりらしい。  マヒワとしては、こんなに汗臭い大男に抱きしめられたくない。  とはいえ、あっさり()してしまうと、周りから怪しまれる。  ――どうしたものか?  マヒワの迷っている内容がこんな物騒なこととも知らず、マヒワが黙り込んだのは、怖くなったからだ、と大男は勘違いした。  大男はマヒワの胴体を締め上げようと、両腕を振り下ろした。  ――そんなにノロい動作で、あたしを捕まえられるわけないでしょ!  マヒワは、振り下ろす調子に合わせて、片足を後ろに引きつつ相手の腕を外から払った。 「きゃぁ!」  という悲鳴をつけて、たまたま上手く躱したように見せかけた。  マヒワに払われた腕の勢いと重みで、大男のからだが半回転した。  大男は自分が後ろを向かされたのにも気づかず、マヒワが腕の中にいないので、きょとんとしている。  そのすきにマヒワは、消火活動に当たっている人びとの列に紛れ込んだ。  大男はしばらくあたりをキョロキョロと見渡していたが、マヒワがまた桶をひったくっては水をまき散らしているのをみつけると、手当たり次第に砦の者たちをはじき飛ばして突進してきた。  それを見て、再び逃げ出すマヒワ。
/220ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加