十二

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 消火活動の周辺で鬼ごっこをやられたせいで、火を消すどころか、いまや完全に炎と煙で包まれていた。  消火活動に勤しんでいた砦の者たちも、いい加減腹が立ったのか、走ってくるマヒワの動きを、人垣を作って止めた。 「ほうれ、観念しろ!」  振り向いたマヒワに、舌なめずりする大男が迫る。  マヒワを鷲掴みにしようと、ごつい手のひらが伸びてきた。  マヒワが反撃しようと腰を沈めた瞬間、 「コラァー! 責任者は誰じゃーッ!」  大音声の一喝があたりに響いた。  同時に、 「軍だーっ! 砦に戻れーっ!」  現場責任者と思われる人物の怒鳴り声が重なった。 「早くしろーっ! 消火はもういいーっ!」 「もどれーっ!」 「てったーい!」  方々で叫ばれる命令に、水をかけていたほうも、穴を掘っていたほうも、われ先に砦へと退き始めた。  マヒワを囲んでいた者たちもいなくなった。  大男が周囲の叫び声につられて、マヒワから視線をそらした。  その隙を逃がすようなマヒワではない。  マヒワは、腰を沈めて大地を踏みしめると、全身の力を右肘に載せて、大男の肋骨下の急所に思いっきり叩き込んだ。  大男は、蛙が潰れたような音を口から漏らして、崩れ落ち、地面に伸びた。  マヒワは、大男を介抱するかのように両脇に腕を差し込んで、 「すみませーん! 人が倒れてまーす! どなたか手伝ってくださーい!」  と逃げていく人たちに声をかけた。  マヒワは周りに声をかけながら、大男を引きずり起こす。  ――お、重もっ!
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