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 馬はマヒワの姿をもっと見たい様子で、何度も首を縦に横に動かした。  マヒワは自分の顔がよく見えるように、馬の首に片方の手をあてがって、もう片方で鼻梁をなでた。  マヒワはテンと目が合うと愛おしくてたまらなくなり、テンの鼻面に自分の鼻をこすりつけた。  馬はマヒワの姿を確かめて、ようやく落ち着いた。 「あれっ、姫様!」 「ご無事で、というか、馬を押さえていただいて、ありがとうございます!」 「こいつ、最近、気が立っていて、いきなり噛みついたりしてたんですが、大丈夫でしたか?」  と口々に言うのは、慌てて駆けつけた使用人たちだ。  もともとマヒワの私邸にいた者たちで、知っている顔ばかりだった。  マガンは、マヒワの私邸の使用人だった者たちを手厚く保護した。  宗廟事変の襲撃があった、あの日。  命を失った者には葬儀をし、里に帰る者には路銀を与えた。  このままマヒワの傍にいたいという者には、屋敷内に部屋を与え、仕事をさせた。  いま現れた使用人たちには、馬の世話を任せていたのだ。 「大丈夫。もう落ち着いたよね、テン」  マヒワが(くつわ)をとると、おとなしくついてくる。 「厩舎はどこ?」 「こっちです」  そう言って厩舎に案内する使用人たちの後に、マヒワとテンが続いた。  厩舎にはもう一頭いた。  テンの母馬、ツキだ。  ツキは母ルリの乗っていた馬だった。  額の曲星の模様が三日月に似ているから、「ツキ」と名づけられていた。  ツキが子を産んだとき、その仔馬の額に白い斑点がひとつあったので「テン」と、マヒワとルリで名を付けた。
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