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ふらつきながらも、大男の身体を引きずっていると、それに気づいた男たちが四人ばかり、親切にも集まってきてくれて、大男を担ぎ上げた。
「ありがとうございます。助かりました」
とマヒワがお礼を言うと、「いや、いや、なんのこれしき」と照れを隠して、張り切って運んでいく。
男たちの張り切りようが半端ないので、マヒワはもはや指を添えているだけだ。
その状態で煙に巻き込まれないよう、移動していると、「こらーっ! またんかーっ!」との怒鳴り声。
軍隊を率いる将校らしき人物とその後続部隊が、マヒワのところに迫ってきた。
マヒワが振り向くと、怒鳴りながら迫り来る相手と目が合った。
何のことはない、将軍である師範代が直々のお出ましである。
「おーっ! まひぃ……」
慌てて、マヒワは口に手を当て、首を振って、「しゃべるな」の身振り手振り。
師範代も気づいて、慌てて口に手を当てる。
――バカ! くちに手を当てるなー!
こんどは、「あっちに行って」の身振りをする。
師範代は不器用に小刻みに首を縦に振ると、急に方向を変えて、マヒワから遠ざかっていった。
「こらーっ! そこだ! まてーっ! またんかーっ!」
と、別の集団を追いかけ始めた。
その姿にマヒワは冷めた視線を送る。
開かれた目は半眼だ。
――将軍、演技が下手なのにもほどがあります……。
マヒワは周りを見るが、幸い、みんなは大男を運ぶのに必死で、先ほどのやりとりを見た者はいないようだった。
マヒワも砦に紛れ込むことに集中する。
逃げていく先になる砦の門は煙で包まれていてよく見えない。
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