十二

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 マヒワは汗を拭いていた手ぬぐいを広げると、鼻と口を覆って、首の後ろで結んだ。  大男を担いだマヒワたち一行も、まもなく煙の中に入った。  煙の中に入ると、濡れた手ぬぐいで覆っていても、咳き込むのを止められなかった。  ろくに目も開けていられず、涙が止まらない。  それでも、砦の中に入って、門が閉められると、煙たいのはいくらかましになった。  軍隊の突入も防げたようで、砦の外壁の向こう側から怒鳴り声と武器の触れ合う音が聞こえる。  さすがに煙を避けているのか、煙の迫る門の方からは、軍の寄せ手の声は聞こえなかった。 「このまま医務室に運びましょう」  軍隊が迫っているので、みんなも建物の中に入りたいらしく、マヒワの提案に素直に従った。  砦の敷地の中央には、三階建ての建物が二棟向かいあって、砦の中央を貫く道を挟んで建っていた。  石積みの三階建てで、矢間なのか窓の一つ一つが細くて縦に長い。  医務室というのは右側の建物にあるらしい。  木製の扉を開けると、食堂のような広い部屋になっており、そこに隣接して医務室があった。  医療用の寝台が三台あって、一番手前の寝台に大男を寝かせた。 「みなさん、ありがとうございました。あとはあたしが看病しますので、みなさんは持ち場へお急ぎください」  と、マヒワはお礼を言いながら、手伝ってくれた人たちの背を押して、医務室からさりげなく追い出した。 「ほらほら、早く行かないと、叱られますよ」  訳がわからず振り返る人には、手を振って見送った。  医務室に残ったマヒワは、口に当てていた手ぬぐいを外して、大きく深呼吸した。 「さぁ、やるぞっ!」
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