十二

12/18
前へ
/220ページ
次へ
 マヒワは松明になりそうな薪を選ぶと、かまどの火を移した。  松明を片手に慎重に階段を下りた。  床に降り立つと、松明をかざした。  地下室の奥行きは深く、松明の灯りは隅まで届かない。  マヒワは暗い空間に全神経を集中して、慎重に歩みを進める。  灯りに気づいたのか、金属の音が響いた。  マヒワは金属音のする方向に松明を伸ばした。  松明の灯りをぬらりと照り返す壁に、黒いシミのようなものが浮かんだ。  手足に枷をはめられ、壁を背に大の字に釣られたバンがいた。 「お、おじさん!」  マヒワは灯りが消えないように松明を床に置くと、バンに駆け寄った。 「おじさん! おじさん! しっかりして! おじさん!」  何度も耳元で叫びながら、頬を叩いた。  バンのうつろな目に光が戻り、マヒワを見つめる。  バンの目から涙があふれだす。  バンは何かを伝えようとしていた。  口は動くが、言葉を結ばない。  しかし、必死で何かを話そうとしている。 「え、なに?」  マヒワは耳をバンの口元に寄せた。 「はんたいがわ……、まこう……つくって……」  そこまで言うと、声が出なくなったようだった。  ただ、バンの口は動き続けている。 「いまは、しゃべらないで。いま鎖を解くからね」  マヒワは地下室を見渡す。  桶が乱雑に置かれているほかは、拷問具などがあった。  ――これで、おじさんを痛めつけたのね!  マヒワは唇を噛む。  さらに見渡すと、その奥の机の上に鍵の束を見付けた。  マヒワは机に駆け寄って、鍵の束を取ると、バンの足の枷をとった。  鎖を解くと、バンの足がぎりぎり床に届いた。
/220ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加