十二

13/18
前へ
/220ページ
次へ
「おじさん、ちょっと踏ん張れる?」  足を持ってゆっくりと床に降ろしてみる。  そのとき、バンの足の指に爪のないことに気づいた。  驚きのつぎに、怒りが続いた。  ――あいつらーっ!  マヒワは半泣きになりながら、バンの手の枷をとった。  こっちにも、爪がない。  ――何が剣聖さまよ! ちやほやされて、いい気になって! けっきょく、大切なひとを守ることさえできてないじゃない! 「おじさん、ごめんなさい。本当にごめんなさい……」  手の方も解放されたバンは、マヒワの背に力なくもたれかかった。  バンのからだは、とても軽かった。  マヒワは床にバンを横たえると、からだの傷をひととおり調べた。  骨折や大量の出血はなさそうだが、いまマヒワが担いで運び出すのは無理な容態だった。 「ちょっと待っててね。すぐ戻ってくるから」  そういうと、マヒワは地下室の階段の方に向かった。  ――軍を引き入れて、スイリンさんたちを呼んでこよう。  階段を上がって、床から顔を出し、厨房の様子を窺う。  この建物自体、誰もいないようで、内側は静かなものだ。  ただ、建物の外は、かなり騒々しい。  マヒワは厨房に上がると、勝手口から外に出た。  陽はかなり傾いていたが、まだ明るかった。  雑木林の火災はおおかた収まったようで、むせるような煙はもう無くなっていた。  砦の門の方で沢山の人たちの犇めく音がする。  軍隊は、門を破壊しようとしているようだが、まだ入れていないようだ。  砦の防壁には、弓を引く戦闘員の姿があった。  マヒワは防壁からも見つからないように気をつけながら、物陰に隠れつつ移動した。
/220ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加