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「おじさん、ちょっと踏ん張れる?」
足を持ってゆっくりと床に降ろしてみる。
そのとき、バンの足の指に爪のないことに気づいた。
驚きのつぎに、怒りが続いた。
――あいつらーっ!
マヒワは半泣きになりながら、バンの手の枷をとった。
こっちにも、爪がない。
――何が剣聖さまよ! ちやほやされて、いい気になって! けっきょく、大切なひとを守ることさえできてないじゃない!
「おじさん、ごめんなさい。本当にごめんなさい……」
手の方も解放されたバンは、マヒワの背に力なくもたれかかった。
バンのからだは、とても軽かった。
マヒワは床にバンを横たえると、からだの傷をひととおり調べた。
骨折や大量の出血はなさそうだが、いまマヒワが担いで運び出すのは無理な容態だった。
「ちょっと待っててね。すぐ戻ってくるから」
そういうと、マヒワは地下室の階段の方に向かった。
――軍を引き入れて、スイリンさんたちを呼んでこよう。
階段を上がって、床から顔を出し、厨房の様子を窺う。
この建物自体、誰もいないようで、内側は静かなものだ。
ただ、建物の外は、かなり騒々しい。
マヒワは厨房に上がると、勝手口から外に出た。
陽はかなり傾いていたが、まだ明るかった。
雑木林の火災はおおかた収まったようで、むせるような煙はもう無くなっていた。
砦の門の方で沢山の人たちの犇めく音がする。
軍隊は、門を破壊しようとしているようだが、まだ入れていないようだ。
砦の防壁には、弓を引く戦闘員の姿があった。
マヒワは防壁からも見つからないように気をつけながら、物陰に隠れつつ移動した。
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