22人が本棚に入れています
本棚に追加
階段の付近には作業台が四列ならんでいて、その上には、るつぼや薬研などの薬を造る道具が置いてあるので、ひょっとしたらここが魔香の製造所かもしれない。
その作業台の奥の方に人の気配がする。
その手前には木箱が積んであるので、姿は見えない。
マヒワは足音を忍ばせて、人の気配のする方に近づいていった。
足を運びながら、マヒワは、テンのことを想っていた。
マヒワはテンに乗って牧場を駆け巡っている。
冷たい風が頬をなぶっていく。
――! いかん、いかん、……集中、集中。
マヒワは頭を振って、意識を集中する。
壁に手を沿わせ進んでいるのに気づいた。
――なんだか、からだが軽い……。
気分が良くなって、頬が緩む。
また、頭を振る。
――もう少しで、たどり着く。がんばれ、あたし!
――いた!
痩せ細った体つきの男。
マヒワには背を向けていて、机の上の帳簿や書類をかき集めているようだった。
男がマヒワに気づいたのか、こちらを振り向いた。
男は仮面をつけていた。
仮面は木でできており、くちばしのような突起があった。
両目の部分が空いていて、大きく見開かれた眼が見えた。
――ういしゅう!
仮面の色は黒くないが、烏衣衆と同じような仮面だった。
男は両手を突き出し、誘うように手を振っている。
マヒワは、いやいや、と首を振る。
首を振り始めたら、首振りの動作がとまらない。
振っていると頭の奥のあたりが気持ちいいから、無駄に続けてしまう。
――あれぇ?
ゆっくりと目の前の世界が遠のく。
そしてまたゆっくりと感覚が戻ってくる。
最初のコメントを投稿しよう!