十二

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 階段の付近には作業台が四列ならんでいて、その上には、るつぼや薬研などの薬を造る道具が置いてあるので、ひょっとしたらここが魔香の製造所かもしれない。  その作業台の奥の方に人の気配がする。  その手前には木箱が積んであるので、姿は見えない。  マヒワは足音を忍ばせて、人の気配のする方に近づいていった。  足を運びながら、マヒワは、テンのことを想っていた。  マヒワはテンに乗って牧場を駆け巡っている。  冷たい風が頬をなぶっていく。  ――! いかん、いかん、……集中、集中。  マヒワは頭を振って、意識を集中する。  壁に手を沿わせ進んでいるのに気づいた。  ――なんだか、からだが軽い……。  気分が良くなって、頬が緩む。  また、頭を振る。  ――もう少しで、たどり着く。がんばれ、あたし!  ――いた!  痩せ細った体つきの男。  マヒワには背を向けていて、机の上の帳簿や書類をかき集めているようだった。  男がマヒワに気づいたのか、こちらを振り向いた。  男は仮面をつけていた。  仮面は木でできており、くちばしのような突起があった。  両目の部分が空いていて、大きく見開かれた眼が見えた。  ――ういしゅう!  仮面の色は黒くないが、烏衣衆と同じような仮面だった。  男は両手を突き出し、誘うように手を振っている。  マヒワは、いやいや、と首を振る。  首を振り始めたら、首振りの動作がとまらない。  振っていると頭の奥のあたりが気持ちいいから、無駄に続けてしまう。  ――あれぇ?  ゆっくりと目の前の世界が遠のく。  そしてまたゆっくりと感覚が戻ってくる。
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