十二

17/18
前へ
/220ページ
次へ
 仮面の男が両手を前に、突進してくる。  マヒワはふらついていた視線を固定し、木剣を構えた。  ――あたし、反応が遅い?  いつものような素早さがない。  踏ん張ろうとして、膝を張り、腰を落とした。  そのとき、背後から手が伸びてきて、マヒワは鼻と口を白い布で覆われた。  ――しまった!  背後をとられたマヒワは、木剣を床に落として、白い覆いを剥ぎ取ろうとしたが、思うように手足が動かない。  首に腕が巻かれ、マヒワの姿勢が徐々に崩されていく。  抵抗しようとするが、力が入らない。  ――ああ……なんだか……どうでもよくなってきた……。  マヒワは床に引き倒された。  その拍子に、鼻を覆っていた布が少しだけずれた。  マヒワは鼻で大きく空気を吸い込む。  その鼻を仮面の男がつまんだ。  ――いや! いやぁ!  マヒワは首を振って逃れようとした。  鼻をきつくつままれて、顔を動かせない。  口を覆う手が外され、顎を固定された。  頬にあてられた指が食い込んできて、いやでも口が開いていく。  マヒワは手足をばたつかせて逃れようとするが、床の表面を滑るだけだった。  マヒワの目の前に薬包紙が見えた。  無理矢理開けられたマヒワの口から、悲鳴のような息が漏れる。  口の中に薬の粉が落とし込まれた。  激しく咳き込んで、口から白い粉が舞い上がる。  口に液体が注ぎ込まれ、強引に閉じられた。  吐き出そうとしたが、無理だった。  鼻をつままれているので、息ができない。  ごっくん――  マヒワの喉が動いた。  それでも鼻と口を塞いでいる手は離れない。
/220ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加