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「――剣聖さま、無防備がすぎやすぜ。けど早いもんだねぇ、もう十七歳におなりか……」
マヒワが幼い頃に両親を亡くして以来、身近に仕えているバンは、ずっと彼女の成長を見守ってきた。
マヒワが「強くなりたい」といって剣術界に身を投じ、過酷な修練を重ねてきたのを傍で見てきた。
マヒワが御光流【みひかりりゅう】剣術の同門から『剣聖』と認められたときには、バンは我がことのように喜んだものだ。
長い黒髪を頭の天辺あたりで無造作に束ね、綿一重の武術衣を着ている姿は男装であったが、寝顔は少女だった。
そして、マヒワの腰に巻いている革帯には、獅子を模った黄金の帯鉤があった。
それは亡き母の形見であった。
マヒワは無意識のうちに帯鉤をなでる癖があった。
その姿を見るたびに、バンはいたたまれない気持ちになった。
マヒワは寝入った今も、帯鉤に手を当てている。
バンはそれを見て、深いため息をついた。
――あのとき、あっしがもっと早く敵の動きを掴んでいれば、こんなことにはならなかったものを。
と、いつも後悔するが、敵のほうが上手であったことも、悔しいことだが認めざるを得なかった。
バンは口も元をゆがめると、炎の中に柴を投げ入れた。
バンの目には揺らぐ炎が写っていたが、その瞳の奥では遠い過去を見ていた。
――!
バンの耳が、焚き木の爆ぜる音に混じって、馬のいななきと、金属の触れ合う音を捉えた。
バンは立ち上がって、視線を周囲に巡らせた。
今度ははっきりと怒号が混ざっている。
「おじさん!」
さすがは剣聖。
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