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 そのテンには、体躯がしっかり育ったときをみて、マヒワが乗るようになった。  マヒワたちが親子なら、馬たちも親子だった。  狩りや遠出をするときには、いつも親子で一緒だった。  馬たちは、あの事件以来、環境が変わったのと、マヒワたちが少しも会いに来ないので、相当に不満を募らせていたようだ。  ツキもマヒワの姿を認めてうれしそうだった。 「ツキも、ごめんね。ぜんぜん会いに来なくて。でも……お母さんとは……もう会えないよ」  マヒワはツキの首に顔をうずめ、泣いた。  ツキは、マヒワの泣きたいようにさせるつもりなのか、そのままじっとしていた。  ようやくマヒワが泣き止んで、顔を離したとき、ツキと目が合った。  その、以前にはなかったツキの寂しいまなざしを見て、マヒワはわかった。 「悲しいのは、あたしだけじゃなかったんだ……」  マヒワは、震えるほど両方のこぶしをきつくかためて、立ち尽くした。  両目からは、ふたたび涙が吹きこぼれる。 「ごめんね。……あたし。あたし、ひとりぼっちじゃなかったんだ……」  泣いてはいるが、口元はほころんでいた。 「ツキも、あたしを乗せてくれる?」  ツキは、当然だ、と言わんばかりに、首を振った。 「明日、お出かけしようね。約束するよ」  つぎの日から、マヒワは馬たちと遠出するようになった。  出かけた日には、一日中、馬たちとしゃべった。  ようやくマヒワの日常に色が戻った。  一方、イカルのもとで働いていた密偵も、マガンの屋敷に寝起きするようになっていた。  この男の名を、バンという。
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