十三

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十三

 やっと軍が砦の門を破り、突入した。  スイリンも兵士たちに混ざって、砦のなかに入った。  スイリンは、マヒワの弓と矢筒を肩から担いでいた。  スイリンは先ほどから胸騒ぎがしてならない。  ――嫌な感覚。  それは任務の途中でいちばん出会いたくない感覚だった。  いままでの経験から、この感覚はたいてい当たっていて、仲間が大怪我をしたり、ひどいときには、殺されたりしている。  雑念を払っても払っても、自分の父親の姿より、マヒワの姿のほうがちらつく。  ――お嬢様、どうか、ご無事で……。  砦の中に入ったスイリンは、移動しながら素早く周辺の状況を把握していく。  砦のなかでは、兵士たちが刃向かってくる者をなぎ倒していた。  兵士の数は圧倒的なので、鎮圧するのも時間の問題だろう。  軍に抵抗している者は戦闘服を着ている者たちばかりだった。  連れてこられた人たちの姿がない。  ――証拠の隠蔽と証人の抹殺か?  スイリンはそう直感した。  おそらく戦闘員の抵抗は時間稼ぎだろう。  ――では、その証拠とは?  この砦で作っていた物。  ――証人とは?  その作業に従事していた者。  ――お嬢様もそれらに巻き込まれたのかもしれない……。  スイリンは証拠のありそうな場所に見当をつけて、足を急がせる。  ――やはり、目の前の建物が怪しい。  スイリンは、まず左手の三階建ての建物を探ることにした。  周囲の戦闘が、建物の扉付近にまで及んできたので、裏に回った。  建物の裏には、壁に沿って木箱が二階の窓の高さまで積み上げられていた。
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