十三

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 脚が痙攣するように一度はねた。  スイリンは、我知らず、手のひらでマヒワの頬を叩いていた。 「お嬢様! お気を確かに! お嬢様! スイリンです!」  マヒワは顔を横に向けると、激しく咳き込んだ。  スイリンがマヒワの背中を叩き、さすった。 「お嬢様、大丈夫ですか?」  咳が落ち着いたところで、マヒワの上体をゆっくりと起こした。 「――み、みず。……のどが、……」  ごほごほ、とマヒワがまた咳き込んだ。  スイリンは自分の水筒を取り出し、咳の治まった頃を見計らって、マヒワの口に当てた。  マヒワが音を立てて水を飲む。  その間も、スイリンはマヒワの背中をさすり続けた。  マヒワは少し落ち着いたようだ。  うつろな目をスイリンに向ける。 「ああ、スイリンさん。ごめんね。あたし、魔香を飲まされて、死んじゃったの……」  スイリンは、何のことかわからなかったが、マヒワがとても悲しそうにいうので、調子を合わせて頷いた。 「お嬢様。それは大変な目に遭われましたね。でも、まだこのように生きていらっしゃいますよ」  といって、マヒワの頬をつねる。 「ひやっ!」  マヒワはびっくりして、顔をそらした。 「いたっ! って、す、スイリンさん!」  マヒワの目が大きく見開かれた。  その先には、今度はうれし涙で目を腫らしたスイリンがいた。 「あれ? あたし、地下に降りていって、仮面の男に羽交い締めにされて、魔香を飲まされて……」  マヒワは記憶を整理していく。 「でも、ここは……?」  周りを見渡すが、わからない様子だった。 「建物の裏側です。お嬢様は、木箱の陰に倒れておいででした」
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