十三

10/21
前へ
/220ページ
次へ
 いつの間にか作業員たちは、物陰へとちりぢりに逃れて、事の成り行きを、固唾を呑んで見守っていた。  先生が戦闘員たちをすべて倒し、マヒワの助勢に加わった。  烏衣衆は自分ひとりだけになったのに気づくと、身を翻した。  慌てて、烏衣衆の背を追うマヒワ。  一方の先生は、冷静に烏衣衆の動きを目で追っていた。  烏衣衆の行き先には、荷の積み下ろし用の綱があった。  綱は、滑車を通して、木箱を宙づりにしていた。  作業の途中で止まっていたようだ。  烏衣衆は空いている手に綱を絡めると、マヒワの方を振り向いた。  マヒワの来るのを誘っているようだった。  先生は烏衣衆の動きに作為を感じ取った。  烏衣衆の目の動きで、意図が読めた。  しかし、マヒワは全く気づいていない。 「マヒワ殿! 上だ!」  その叫びが合図であったかのように、烏衣衆は手に持った剣で綱の一端を斬った。  烏衣衆のからだが綱に引っ張られて、上方に飛んだ。  反対に、吊り下げられていた木箱がマヒワの頭上に落ちてきた。 「あっ!」  木剣を持った手で、頭をかばう。  木箱が砕け散り、マヒワの木剣が吹っ飛んだ。  木箱の中身は粉薬だったのか、もうもうと粉じんが舞い上がった。  マヒワは――、  木箱が当たる直前、背中に衝撃をうけて、前方に跳んでいた。  とっさに受け身をとった。  受け身をとるために息を詰めていたので、咳き込むこともなかった。 「先生、ありがとうございます!」 「すまぬ。大丈夫か!」  間に合わないと判断した先生が、マヒワを背後から蹴り飛ばしたのだ。  おかげでマヒワは落ちてきた木箱を紙一重で回避できた。
/220ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加