十三

15/21
前へ
/220ページ
次へ
「ひょっとして、あのひともお嬢様が倒されました?」 「ええ、ちょっと、身の危険を感じたもので……」  マヒワは恥ずかしそうに、頬を指先で掻きながら言った。 「あのひと、革製とはいえ、頑丈な胸当てをつけていましたが、まさかとは思いますが、素手で当て身を入れられましたか?」 「ええ、そのまさかです。防具の上から当てました」 「でも、どうして急所に当たったのでしょう? 胸当てにはへこんだ跡はありませんが……」 「ちょっとした、コツがあって。その……、打突の衝撃が最大になるところを防具の裏側の、少し奥に意識するとできるんですが、えっと、その、わかりませんよね……」 「なんとなくわかりますが、できるとは思いません」 「ふつーは、そうですよねぇ……」  マヒワとスイリンのやりとりを聞いていた、先生も首を振っていた。  先生の首振りが、感心しているのか、あきれているのか、気になるところではあったが、自分以外にはできないことが、なんとなく判った。 「あのひとは、大丈夫そうですか?」  と、マヒワは先生に尋ねた。 「ええ、大丈夫ですよ。暴れられても困るので、薬を飲んで寝てもらっています」  その返事を聞いて、マヒワは安堵した。  バンと大男が運び出されると、スイリンが、 「お嬢様、わたくしも一緒に行ってまいります。では、のちほど」  と一礼して、隊員たちの後を追って、建物を出ていった。 「気丈なお嬢さんだ。自分の役割をしっかりと心得ていらっしゃる」  と先生がスイリンを見送って言った。  バンがスイリンの父親であることを聞いたようだ。
/220ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加