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「この砦には、定期的に荷馬車の往来があって、ちょうど四日前の搬入のときに、医師として紛れていたんです」
「荷物のなかとかに隠れたりしなかったんですか?」
「堂々としていれば、誰何されても、『何かの手違いでしょう』といえば案外、通るものです」
と自信満々でコエンはいうが、コエンことを「手違い」で認めて済ませてしまうのは、自然と「先生」と呼んでしまう風格のなせる業だろう。
同じ状況で、マヒワが誰何されて「手違いでしょう」とでも言えば、本当に手違いとしか思われそうにない。
「まぁ、それは冗談として……」
「うおっ! じょ、じょうだん?」
――先生は冗談も言うのですか!
と、心の中で叫んだが、コエンがいうと、冗談に聞こえないのが不思議である。
「砦から隊商へ、医師を派遣してほしい、という内容の書類があったので、ところの医師になりすまして名乗り出ただけのことです」
「コエン先生は、本当にお医者様なんですか?」
「ええ、医師ですが、いまは開業していません。孤児院で子どもたちを育てています」
「セトくんやムーサくんですね」
「そうです。二人には薬草を育ててもらってました。たまたま、そのうちの一種が魔香の解毒作用があったのです」
「それで、二人が誘拐されてしまった、とか……」
「そのようですね。この砦の周辺の土壌は、孤児院の周辺と似ているので、栽培するつもりだったようです」
「この砦で、魔香の解毒剤を研究していた、というわけですね」
マヒワの導き出した結論にコエンは頷いた。
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