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――強さとかっこよさにあこがれて、入門を許してもらったものの……ぜんぜんおもしろくないッ!
今日もマヒワは日課として、素振りに勤しんでいた。
肌寒い時期なのに、マヒワの身体からは、汗が滴り、湯気も上がっている。
ただ、その表情は憮然としており、近くを通り過ぎる門弟たちも気安く声をかけられるような雰囲気にない。
その日の夕食後、さすがに同じ動作に飽きたマヒワは、居間でくつろいでいるマガンに、「ほかの練習もやりたい」とこぼした。
マヒワの訴えにマガンは目を閉じたまま、
「修練場にはな、マヒワ。住み込みの内弟子たちもいる。そいつらは、マヒワより遙かに経験年数も長く、積み重ねてきた稽古の量も質も全然比べものにならない」
そう言ってマガンは薄目を開けると、ちらりとマヒワを見て、
「マヒワ、お前は誰よりも強くなりたいのであろう? みんなと同じ時間に同じような稽古をしているだけで、そいつらを追い越して、自分の方が強くなれるとでも思っているのか?」
と問いかけた。
「うぐぐ……」
マヒワは反論できない。
「それとも、お前は、強くなることを諦めたのか?」
――!
マヒワの目が大きく見開かれた。
この言葉は、マヒワにとっては痛烈な一撃だった。
マヒワは下唇をかみしめ、自分の愚かさを恥じた。
「父上のおっしゃるとおりです。あたしが浅はかでした……」
と言って、一礼すると、居間を出て行った。
マヒワが閉める扉の音も弱々しかった。
マガンの瞼が再び閉じられた。
鼻からは、太いため息が漏れた。
「――あの年齢なら、今の稽古は精神的につらいでしょうね」
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