22人が本棚に入れています
本棚に追加
マヒワの後ろ姿を見送って、妻のアッカが言った。
「……なんだ。ほかの内弟子なら、情けない、とか厳しいことをいうくせに。マヒワには甘いな。やっぱり、娘は可愛いか……?」
マガンとアッカの間に、子は生まれなかった。
子育ての経験がないので、マヒワを養女にして育てるのに不安はあったが、マヒワが剣術の稽古を始めたので、「弟子なら何人も育てたわ」と、ほっとしたようにいったのは、アッカだった。
「私の若い頃を思い出したわ。武術を始めたばかりの頃は、私も口にするのは愚痴ばかりだった……」
「こんなことをやっていて意味あるのだろうか? 自分は何をやってるんだろう? ってな。それでも、そこを乗り越える奴しか、たどり着けない境地がある」
「才能だけじゃだめですものね。才能ある者が、ひたすらに、がむしゃらに、努力しないと行けないところ――。マヒワにもたどり着いてほしいわね……」
「こればかりは、本人が乗り越えないとな」
「――自分にとって本当に大切な事は、あとになって、そうだったのか、ってわかるものなのよね」
「やっと、甘さが抜けたな」
「――ばかね! あなた、最近鍛錬をさぼってるでしょ。お腹を見せなさい!」
マガンは、上着の裾をあげてまあるい腹を出して、ぽん、と叩いてみせた。
「これはな、……ほれ、貫禄の鍛錬というものよ」
「ほほおぅ、ものはいいようですなぁ、老師さま」
と、マガンとアッカが他愛もない冗談で笑っている頃、マヒワは厩舎にいた。
「……テンにもつまらないことってある?」
マヒワの話し相手は、たいていテンだ。
最初のコメントを投稿しよう!