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 マヒワの後ろ姿を見送って、妻のアッカが言った。 「……なんだ。ほかの内弟子なら、情けない、とか厳しいことをいうくせに。マヒワには甘いな。やっぱり、娘は可愛いか……?」  マガンとアッカの間に、子は生まれなかった。  子育ての経験がないので、マヒワを養女にして育てるのに不安はあったが、マヒワが剣術の稽古を始めたので、「弟子なら何人も育てたわ」と、ほっとしたようにいったのは、アッカだった。 「私の若い頃を思い出したわ。武術を始めたばかりの頃は、私も口にするのは愚痴ばかりだった……」 「こんなことをやっていて意味あるのだろうか? 自分は何をやってるんだろう? ってな。それでも、そこを乗り越える奴しか、たどり着けない境地がある」 「才能だけじゃだめですものね。才能ある者が、ひたすらに、がむしゃらに、努力しないと行けないところ――。マヒワにもたどり着いてほしいわね……」 「こればかりは、本人が乗り越えないとな」 「――自分にとって本当に大切な事は、あとになって、そうだったのか、ってわかるものなのよね」 「やっと、甘さが抜けたな」 「――ばかね! あなた、最近鍛錬をさぼってるでしょ。お腹を見せなさい!」  マガンは、上着の裾をあげてまあるい腹を出して、ぽん、と叩いてみせた。 「これはな、……ほれ、貫禄の鍛錬というものよ」 「ほほおぅ、ものはいいようですなぁ、老師さま」  と、マガンとアッカが他愛もない冗談で笑っている頃、マヒワは厩舎にいた。 「……テンにもつまらないことってある?」  マヒワの話し相手は、たいていテンだ。
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