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 この日からマヒワは、獅子の帯鉤を常に身につけるようになった。  マヒワのそばを通る者たち全員が、素振りの勢いに気づくほど、マヒワの動きはよくなっていた。  振り下ろす剣が鋭く空気を裂く。 「ほぅ――、よくなったな」  声を掛けられても、マヒワは素振りをやめない。  マヒワは集中力を途切れさせることなく、素振りの動作を繰り返す。 「イカル様にそっくりだ」 「ほへっ」  思いもかけず、父の名を聞いて集中力が途切れたうえに、いささか間の抜けた声を漏らしてしまったことで、顔が赤くなる。  マヒワは、軽く咳払いをし、胸をたたいて自分を落ち着かせながら、 「お父さん……。いえ、父をご存じなのですか?」  と問いかけた。  改めて顔を確認すると、声を掛けてくれたのは、マヒワがはじめて修練場を覗いたときに、円陣の真ん中で剣を振るっていた弟子だった。  マヒワが「強くてかっこいい」と思った、あの人である。  ノッジョという名であることを、あの日、ほかの弟子に教えてもらった。  本人に直接聞くのが恥ずかしかったのだ。 「おう。俺が剣術を極めたいと思ったのも、あなたの父君にあこがれたからだよ」 「あのぉ……。父も、ここで稽古をしていたのですか?」 「あぁ。強かったね。仕合をやっても全く勝てる気がしなかったな。越えられない、絶壁っていうの? すごく強かったねぇ、あのお方は」 「もう少し、お聞かせください。父のことをもっと知りたいんです!」  ノッジョは微笑むと、マヒワの足下を指さして、 「親子だねぇ。――ほら、ちょうど同じ位置に立って、同じように素振りをしていたよ」 「ここで、ですか!」
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