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 マヒワが剣術に入門して三年目に、王都でちょっとした事件が起こった。  牢獄で起こった事件なので、表沙汰にはならなかったが、(まつりごと)に携わる者を震撼させた事件であった。  牢獄に収監していた宗廟事変の実行犯が全員暗殺されたのである。  この事件は、内部関係者が犯行に関与していた可能性が極めて高いことと、求刑に対して余裕を見せていた実行犯たちが、おそらく意に反して殺されたことの二点から、宗廟事変はさらに不可解になった。 「王族の幕舎を襲って捕まった警備隊長とその部下たちは、食事と水に毒を盛られたようです」  当然、王都守護庁に出入りしているバンは、より詳細な情報を掴んでいた。 「毒殺であることを隠す様子はなかったのだな?」  宗廟事変当日に、マヒワ母子を救出したマガンも関係者の一人なので、無関心ではいられない。 「へい。むしろ、あからさまなほうで」 「そうすることで、何を伝えようとしているのであろう?」 「結局、この事変の裏にいる奴らにとっては、あの日の襲撃は失敗だったんじゃねぇかと思います」 「その見切りをつけたってことか」 「おそらく、そうじゃねぇかと……」 「あの事変は、王族全員のお命を狙ったものであったな」 「そのようで。でも、王様は、当時のご記憶をなくされていますが、ご存命。王位継承権一位の王女様は行方不明のままですが……」 「つまり、もし自分がつぎの王になろうと企んでいる者がいるとすれば、成功したとは言えんな」 「そういうことで……」 「なら、すでに新たな動きを始めたということにならねぇか」  マガンの意見に、バンが頷いて同意した。
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