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「この王国は、北方の騎馬民族国家とおなじで、王家の正統性の評価に女系の血筋を重んじておる。男系はそのつぎじゃ。そこで、第三王妃の侍女頭であったルリを王弟のアビ様の養女ということにしたのち、結婚させたのだ」 「第三王妃といえば、いまから十年ほど前に、ダコバ元侯爵の陰謀を阻止された、あの王妃様ですね」 「そうじゃ。ダコバのやつが、第二王妃である娘の懐妊を知って、孫を次王にし、自分が外戚になろうと欲を出した。結果、三人の王妃が避暑地の離宮へ向かう道中で、当時まだ乳呑み児であった王女の暗殺を企てた、あの事件だ」 「性別に関係なく最年長の子が王位を継ぐ、っていう制度があるからですね。あのとき、ダコバは、自分の娘も襲撃事件の被害者であると見せかけるため、三人の王妃を同時に襲わせた……。確か、襲ったのはダコバの雇った野盗団でしたっけ……」 「その野盗の頭目を捕まえたのが、第三王妃だったのよ。ところが、その一件で怒り心頭した第三王妃は、騎馬民族の母国に帰ってしまわれた……」  そう言いながら、マガンは当時のことを思い起こし、 「それで慌てたのは宰相府の連中よ。騎馬民族の北からの脅威を防ぐため、国境を接していた最有力の部族国家からわざわざお輿入れを頂いただけに、外交問題に進展した」 「その件とルリ様が、一体どうつながるので?」 「第三王妃の付き人で唯一この国に残ったのが、侍女頭だったルリだ」 「なぜ、ルリ様お一人だけがこの国に居残りになったんですか?」 「それは儂にもようわからん。ただ、第三王妃がルリとイカルを一緒にさせたがっていた、と聞いたことがある」 「まぁ……結果的にはそうなっていやすね」
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