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 女性としても、はじめてのことである。  そもそも、百人抜きという厳しい試錬を課しているのは、マガン率いる御光流しかない。  剣術界で御光流が最強といわれる所以である。  肉体と精神の限界を超えて、剣を振るう。  思考の及ばない無我の境地で繰り出される剣さばきは、まさに神の領域といえた。  この境地まで引き上げるための試錬が、『百人抜き』であった。  マヒワの肉体の限界は、初日の夕方にやってきた。  およそ四十人を超えたあたりである。  三人掛かりに取り囲まれたのを、舞うようにさばいていたものの、はじいて流れた相手の剣が、マヒワのわき腹に入った。  とっさに息が詰まって、片膝をついたところを、三人が一斉に打ち掛かってきた。  動くのを止めたら仕留められて終わりである。  マヒワは床を転がりながら、相手の足首をねらって、剣を振った。  このとき、打ち掛かってきた二人が足首をしたたかに打たれ、脱落した。  マヒワは、残る一人と相対するため立ち上がったが、足腰に力が入らない。  ふらつくマヒワを容赦なく相手の剣が襲う。  マヒワがとっさに振り上げた剣が相手の剣と噛み合った。  刹那、相手の剣は中程で折れて、吹っ飛んでいった。 「まいりました」  武器を失った相手が、負けを認めた。  が、マヒワには聞こえていないのか、揺れるように立っているだけであった。  そこから、仕合の雰囲気が変わった。  つぎの者たちが、マヒワに剣を向けて、立ちはだかる。  しかし――打ち掛かれない。  マヒワに打ち掛かろうにも、そのきっかけを掴めないからだった。
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