序章

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 襲撃者のうち二人は何が起こったかわからない間に背後から首筋を打たれ、昏倒した。  三人目は、マヒワを視界に捉えたが、胸に衝撃を感じた途端、意識が飛んだ。  四人目と五人目は、マヒワに武器を向けたものの、武器を持った腕の腱を断たれた。  六人目は、マヒワに向けて勢いよく突き出した槍をいなされ、剣の刃で片手の指をすべて飛ばした。  そしてマヒワは最後のひとりに剣を向けた。 「残念ね! 観念なさい!」  最後の襲撃者は、斬撃を加えようと剣を振り上げた格好のまま、あたりをせわしなく確かめた。  いつの間にか自分ひとりになっていることに気づくと、剣を捨てて逃げ出した。 「あっ! 待てッ!」  マヒワは追いかけようとしたが、逃げ出した襲撃者は数歩も行かないうちに首筋を押さえ、倒れた。  ――吹き矢! 「みんな、伏せて!」  マヒワは異変を察知し、暗がりに向けて跳んで受け身をとると、片膝をついた低い姿勢のまま周囲を窺った。  馬のいななきと蹄の音がした。 「おじさん!」  言われるまでもなく、バンは馬の去って行った方へ走っている。  マヒワはしばらくそのままの姿勢でいたが、危険が去ったことを感じ取ると、警戒を解いて、生き残った護衛隊の隊員と家族に駆け寄った。 「大丈夫ですか? お怪我はありません?」  マヒワは、全員に尋ねる。 「おお、なんとお礼を申し上げてよいのか……」  マヒワに近づいてくる、いかにも実業家といった家長の後ろでは、母親が幼い息子と娘を両腕にきつく抱き寄せて、まだ少し震えていた。 「あなた様は命の恩人です。お名前を伺ってもよろしいですか?」
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